決して衛生的とは言えない部屋に数人の子供がいた。
殆どの子供達は先ほどから、一人の子供を見ていた。
「だれだよ、アイツ」
「しらねェ。あたらしいやつだろ」
「チビだな」
「ガリガリだな」
「どーせすぐいなくなるだろ」
「そーだな」
「うん」
淡々とした会話に子供らしいところはなく、その子供達の顔にも子供らしさはなかった。

「ねぇ。起きなよ」
そう言って、床に寝転んでいた子供を揺する。
その子供は眠っているようだった。
何度呼び掛けても反応がない。
その様を見ていた別の子供が言った。
「ダメだな。みずでもかけたほうがはやいんじゃねェの?」
すると子供は揺するのを止めた。
「めんどくさい。それに、そんなことまでやってやる義理なんかないよ」
「じゃあさいしょからほっとけよ」
どうやらこの二人がそこにいる子供たちの中で一番大きいようだった。といっても、せいぜい8つか9つに見える。
他の子供達も含め、皆、揃いの白い着物を着ていた。
他の子供達はじっとその様を見つめている。しかし中には、とてもそんなものを見る気分ではないとでもいうように、膝を抱えている者もいた。
「それくらいわかってる。ばか三太。俺はお前とは違うんだよ。優しいの」
三太と呼ばれた子供は鼻を鳴らした。 「ふんっ!よくいうぜ。死に神が」
「ヒトのこと言える立場か」
「は?たちば?」
三太は単語を理解仕切れなかったようだ。
今までの勢いは何処へやら。きょとんとしている。
「自分がして来たこと思い出せって言ってんだよ、ばか」
「なんだと!」
もはや寝ている子供など放っておいたままで、喧嘩を始める。
見ていた子供達の何人かは呆れ顔になった。
辛気臭い部屋は、子供達の声で少しばかり騒がしくなった。
「………」
その騒がしさによって子供が目を覚ましたことに気付いた者はいなかった。

騒ぎの中、一人身体を起こす。
「………」
見覚えのない場所に、見覚えのない子供達。
何がどうなっているのか、よくわからなかった。
「ぅわっ!おきてたのかよ!」
三太は子供がまるで気配がなかったことに驚く。
「……ここ…ドコ……?」
「へや」
「お前ホントばかだよな」
三太がまた声を荒げたが、それを完全に無視した。
「俺は篠(しの)。そこのばかが三太。君は?」
「ぎ、銀夜……」
相変わらず訳がわからない。
ビビりながらも、聞かれたことに素直に答える。
「銀夜……銀"八"か」
すると篠は突然笑い出した。
「ははっ!コイツ八番目だ!」
「はちばんめ……?」
銀夜の言葉は他の子供達の声に掻き消された。
「ほんとか!?」
「コイツ、銀夜っていうんだってよ!」
「八番目だ!」
「やったな!」
今まで遠巻きに見ていただけの子供達からも、わっと声が沸く。
「はちばんめってなに?ねぇ、だんなさまは?だんなさまはどこにいるの?おれ、だんなさまに……」
「うるせェよ」
三太の着物を引っ張って尋ねると、突き飛ばされた。
「あんなクソジジイの話なんかすんな」
その声は低く、とても怖かった。
「やめなよ、三太。銀夜は何も知らないんだ。そんな頭ごなしに言っては可哀相だろ」
篠が三太を宥める。
「大丈夫?銀夜。三太がごめんね。でも君も悪いんだよ?ココでその人の話はタブーなんだ」
「たぶ?」
小首を傾げる銀夜に篠は吹き出した。
「ははっ!ごめんごめん。しちゃいけないってことさ」
「なんで?」
「ここにいる奴らは皆あの人が嫌いだからさ」
にこりと微笑むが、その笑みに何処か恐ろしさを感じた。
「なんで?」
「君もすぐにわかる」
何か含んだ物言いに首を傾げた。
顔に笑顔を貼り付けたまま、篠が小さく口を開く。
近くにいる者にすら聞き取るのは困難だろう、小さい声だ。
「面倒くさいガキだな。こういう奴は大嫌いなんだ」
「え・・・?」
聞き間違いかと思い、きょとんとする。
しかし篠は相変わらず優しく微笑んでいて、
「どうかした?」
と逆に聞き返してきた。
その時、部屋にある唯一の扉が開かれ、体格のいい男が顔を出した。
子供たちの多くが身体を強張らせたことに、銀夜は気付かなかった。
そして、何人かの名前が呼ばれた。
その中に銀夜の名もあった。

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