銀夜は朝からうきうきしていた。
今日から仕事をさせてもらえる事を旦那さまから聞いたからだ。
銀夜はとても幸せだった。その幸せを与えてくれた旦那さまの役に立てる事が嬉しくて仕方がなかった。なんて恵まれているのだろう。
与えられた部屋でちょこんと行儀よく座り、障子が開かれるのを待った。
何をさせてもらえるのかな。おれでも役に立てるかな。
そんなことを思ってはニコニコニコニコ。
「銀夜、入るよ」
「はい!」
待ち侘びた声を聞き、更に顔を輝かせる。
「本当に元気になったようだね。よかったよ」
元気に返事をする銀夜に微笑みかける。
「だんなさまのおかげです。ありがとうございます」
「うむ。いい子だね」
頭をなでてやると、嬉しそうに微笑んだ。
「銀夜。それで仕事の事だけどね、まずこれに着替えなさい」
そう言って銀夜に着物を渡す。
「白い…きもの……?」
手渡されたものを見て、きょとんとする。
何故今のままではいけないのだろう?
「それから、今日からここではなく、他の子供たちと生活しなさい。いいね?」
「はい!わかりました!」
どんな仕事をするかはよくわからないけれど、どきどきが止まらなかった。
こんな感覚は初めてだった

「それじゃあ、着替えたらそこで待っていてくれるかい。少し用があるのでね」
「はい」
主人が部屋を出て行くと銀夜は着替えだした。
「――白いきもの……」
銀夜は今までもずっと同じような白い着物を着ていた。それは今手の内にあるものよりずっとくたびれたものだったけれども、似ているものに変わりはない。
「………っ」
はっきりいっていい思い出などない。嫌な記憶ばかりだ。思い出したくないと必死で隠していたものが見え隠れするようで気分が悪い。
左右に大きく頭を振った。
「これからはおしごとをするんだ」
やっと誰かの役に立てるのだ。
そしたらいつか、このきものもいいものにみえるかな。
「そうなれたらいいな」

床が不規則に揺れていた。
頭はぼぅとして、夢か現かわからない。
ぼそぼそと低い声がしている気がした。
「おや?もう気付いたのかい?もうしばらくお眠り」
そして甘い香りがして、闇に堕ちていった。

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だんだん暗くなっていく雰囲気です。