気が進まないまま、主人の部屋の前に着いてしまった。
無意識に溜息が出る。
結局、あれをどう言い訳するかなど思い付かなかったのだ。
膝をつき、中に声をかける。
「入れ」
と淡泊な返事の後、静かに障子を引く。
礼をとり、中に入る。
障子を閉める。
こんな、普段は何でもない動作一つ一つがいやに緊張した。
主人の前まで行き、膝を折り、頭を下げた。
主人に正式な礼など何時振りだろうか。
「随分ご執心のようじゃないか」
額を畳に付けたまま、ぐっと唇を噛む。
「困るんだよ。余計な事吹き込まれては。アレは私のモノなのだから」
「……」
返す言葉が見付からない。
主人も宮野の言葉を待つつもりはないらしく、話し続ける。
「君は有能だからアレを任せたというのに、それを裏切るつもりか?」
「……」
否定も肯定もできなかった。
「……アレは明日にでもお披露目するよ。異論はないね?」
そうなれば銀夜は地獄を見ることになる。
そうとわかっているのになんの術もなく、ただ頷くことしかできない。
「……はい」
そんな自分が嫌になった。

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今回は短くて失礼。